『霊感タロット』というキャッチコピー


『先生は霊感タロットですか?それとも普通のタロットですか?』


このようなご質問を、過去に何度も受けてきました。

おそらく、著述専門の占い研究者以外は、ほとんどの鑑定士が、同じ経験をしているのではないでしょうか。


「霊感タロット」という占術は、電話占い業界の市場原理から生み出された、一種の造語であり、キャッチコピーであるという事実を、ほとんどの方は知らないのではないでしょうか。


女性誌の巻末の広告や、占いの特集記事に書いてある情報だけを頼りにするならば、それも無理もないことでしょう。サービスを提供している企業側の目線からみたときに、初めて見えてくることがあります。


電話占い業界は、女性誌の占い記事などに各社が広告を貼り、その宣伝に興味を持った雑誌の読者が電話をかけて来る、という方法で集客してきました。広告に”いくら出せるか”が、業界における知名度を大きく左右しました。それは今日でも変っていないようです。現在でいえば、google検索で上位にあがってくるかどうか、という事と同じ意味を持っていました。だからこそ、広告に書かれている文言の威力、キャッチコピーによる盛んな競争が生じました。


占い師


そこで立ち現れて来たフレーズが”霊感タロット”だったのです。時期的には、2000年前後だったかと思います。タロットという言葉の頭に「霊感」という漢字二文字をくっつければ、あら不思議・・・あたかも、通常のタロットを凌駕した占術、能力を提供できるかのような印象上の効果が生まれました。


この画期的な名称の登場によって、占い業界の各社は、こぞって”霊感タロット”という言葉を用いるようになりました。誰が言い始めたのか、それは分かりませんが、ある種のブームを巻き起こしたことは事実です。


占いについてド素人の経営者が運営しているような企業では、実際にそういう占術があるのだろうと理解して、「霊感タロットができる鑑定士」を募集しようという話にも繋がって行ったようです。


TVに出演する著名な霊能力者や霊媒師の活躍と人気が、間接的にこのブームの火付け役になったことも事実でしょう。


雨後の竹の子のように乱立し始めた「霊感タロット」なる流行語に、昔ながらのタロット占い師たちは、戸惑いと疑問を禁じ得なかった事でしょう。


何故なら、霊感とはインスピレイションであり、霊感を用いずして卜術(ぼくじゅつ)系占いは鑑定しようが無いわけですから。


そもそも、トランプ占術や、タロット占術、易者の先生たちが、書物に書いてあるタロットや「卦」の意味を、四角四面のマニュアル通りに読んでいることは稀であり、基礎的な知識を押えた上で、実際の鑑定においては、ある種の精神的な働き、つまり直観力や霊感を研ぎ澄ませてカードをシャッフルし、筮竹(ぜいちく)を分けているものなのです。


霊感を用いずして鑑定しようのない占術の名前に「霊感」と冠し、競合他社との差別化をはかり、付加価値を持たせようとした、この妙案には感心します。商売としては画期的なアイデアです。業界がこの造語の流行によって潤ったことは事実でしょう。それと同時に、この造語が、大衆の占いに対する認識を(悪意はなくとも)、奇妙な形で塗り替えてしまったことも事実です。


「霊感タロットとはなんぞや?」という問いに対する答えとして、占い業界は、おおよそ以下のような説明で対応して来たようです。表現は微妙に違っていたとしても、意味としては、大体これに当てはまっている筈です。


1 手元にタロットカードが無い状態、つまり素のままで、色々な事を見通すことができる霊感を持った先生が、あえてタロットを切ることで、背筋が凍るレベルに当たるタロット占いに変貌するという説。


2 展開されたタロット占術の結果に対して、それに添加、追加するような形で、”霊感的にビビッときたこと”、または”視えたこと”を添える占いだという説。


(1と2の並存も成り立つ)


このような霊感タロットの能書きは、それ自体が問題というわけではないように感じます。また特にそれ自体が誇大広告というわけでもありません。


なぜなら、生来、第六感がはたらくような人、占い師になる以前から、身近で起きる出来事を言い当てたり、虫の知らせをよく受け取るような人が、その特殊な体質を活かすために占い師になったというケースはよくあることだからです。(説1の場合)そういう先生がタロットを覚えて、占えるようになれば、”霊感タロットができる先生”と名乗れる筈だ、という理屈です。


そして、占術を用いた鑑定士が、その占術結果をひとまず置いておいて、今度は自身の霊感、つまりインスピレイションからどう感じるか、という視点によって、その情報を追加で話すということも、鑑定の中で十分に起こり得ることです。(説2の場合)


問題は、「普通のタロット占い」が、説1、説2のような内容を柔軟に含んだものだという、卜術を身につけた鑑定士たちにとって当たり前の常識が、闇に葬られてしまったことだと思います。


あえてそのことを文章化して「説3」として挙げるならば、このようになります。


3 卜術の基本として、霊感を研ぎ澄ませて鑑定します、以上。


「説1、説2も、確かにあり得るパターンではあるけれども、そもそも卜術って霊感を必要とするでしょう?」ということなんです。


生まれつき、霊的感受性が鋭く、直観に長けた先生がいたとして、その先生が自らの占術を、「霊感タロット」「霊感易占い」などと標榜するとは限りません。むしろ、”占いとは本来霊感をはたらかせて観るものなので、それが当たり前です”と思っている鑑定士にとって、わざわざ霊感と銘打つ必要性はないのです。


ところが、電話占い業界が、盛んに「霊感タロット」という標語を流行らせたことによって、”扱う使用占術に「タロット」と書いてある先生は、霊感タロットができない劣った先生なのだ” というような誤った認識を利用者側に刷り込んでしまう結果となったのです。


私自身、長年この業界にいる者として、「霊感タロット」と書くべきか、「タロット」でも良いか、悩む場面が何度かありました。タロットと書いたところで、内容は、実際には霊感フル稼働なんですけどね。でも、そう書いてしまうと、今度は冒頭でお話したような問いかけに逐一答えなければならなくなり、それも手間がかかります。そういうこともあり、企業に所属して鑑定を請け負う際、霊感タロットと書くケースが多かったように思います。


業界の流行り廃れに影響を受け過ぎず、昔ながらの卜術占い師として、淡々と霊感を研ぎ澄ませてやっていきたいというのが私の本音です。この個人のサイトであれば、それもやり易いだろうと考えています。


小室博史


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2023年11月05日

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